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2013/08/26

「東京で子どもと暮らそう」アサヒ・アートスクエア(2013.8.24)

8月24日(土)に行われたアサヒ・アートスクエアでのロングパーティー「フラムドールのある家」にて、パフォーミングアーツの制作をされているNPO法人alfalfaさんの山口さん、辻さんと一緒に「東京で子どもと暮らそう」というテーマでトークをしてきました。みなさん、貴重な機会をありがとうございました。

山口さんが先日出産をされ、辻さんが現在妊娠中ということで、「これから子育てがはじまっていくけど、アートマネジメントは子育て環境をつくるために何ができるんだろう」という問題意識から立ち上がったこのトーク。「ベルリンやライプチヒの事例の話をぜひ」ということでいただいた機会だったのですが、いろいろ話していくうちに「東京で、アートNPOがどう子育て環境をつくっていくか、そのためにドイツの事例をどう参照するか」という、ぼくにとっても本質的なお題へと深まっていきました。

で、結構印象にのこったので、メモ的に話したことや思ったことを書き起こしてみます。

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「東京で子どもと暮らそう」臼井隆志/NPO法人アーティスト・イン・児童館 from Takashi Usui


まず、東京の状況を考えてみる。

最近さらっと読んでみた『データでわかる2030年の日本』という本から、人口減少時代にあって、東京の人口はほとんど減らない(2010年1300万人→2030年1270万人)。しかし、子どもはまぁそれなりに減る(18歳以下221万人→177万人)。

一方で、非正規雇用者の割合は年々増えている。現在では25歳から34歳の男性の20%、女性の40%が非正規雇用ということで、経済成長!みたいな時代の気運でもないので、この数値は上がることこそあれ、減ることはないだろうと。

そう考えると、「非正規雇用で共働きの夫婦が子どもを育てる」というのが夫婦のモデルとしてデフォルトというぐらいの考え方でいかないと、幸せな子育て環境なんてつくれない。共働き夫婦にとって学校が終わったあとの放課後の保育施設/遊び場の存在は安心という意味でとても大きく、需要はますます高まっていく。少子化にもかかわらず。

というのが前提としてある。

で、保育/福祉厚生施設をみてみると、児童館、公民館、学童保育、子ども家庭支援センター、児童相談所…いろんな施設がありますが、ぱっと見どれも似たような雰囲気というか、かわりばえがしないし、あんまりオープンな雰囲気でもないから初めて行くのはちょっと億劫、、というところがある。

この辺りは、上野千鶴子さんの言う「コミュニティ/アソシエーション」の区別を援用して考えると、「この地域のヒトはこの施設に行ってください」というのが現状で、これは地域のコミュニティベースの考え方。でも、現代では「コミュニティ」よりも「アソシエーション」(地域ではなく、趣味や関心を共有する人の集まり)によって社会が構成されていると言える。アートとかパフォーマンスが好きな人が、アサヒ・アートスクエアに集まる、みたいな。

そう考えると、施設ごとにテーマ性や活動の特色を出して、アソシエーションによる人の集まりを促進したほうがよいのではないかと考えてしまう。人間は多少遠くても、自分が行きたい場所には足を運ぶ。小学生まではコミュニティベースだけど、実際、中学生は別の地域の児童館に自分で電車や自転車に乗って移動するような、アソシエーションベースの放課後活動がもう始まっている。

と、そんなふうに考えてみると、ベルリンのユースセンターや、ライプチヒの「子どもレストラン」「子ども絵本工房」などは、放課後の保育施設的な機能と同時に、子どもたちに創造的な社会参加活動をさせる機能を持ち合わせている。それぞれ「音楽」「料理」「絵本」といった具合に。まさに子どもや若者たちは自分の関心に合わせて施設を選び、活動を選ぶことができる地域環境ができている。

しかも、ドイツでは、こうした施設は指定管理ではなく、市民団体がつくりたい施設の計画を考え、行政や企業や財団にアプライして運営資金を助成・寄付してもらうことで運営を成り立たせている。ボトムアップで多様な施設が生まれている。

日本では、多様な業者が運営を担う指定管理者制度の導入がつぎつぎと広がっている。行政がつくる均質な施設から、多様化していく気運がある。そんなとき、アートNPOがつくる児童館、学童保育、公民館などがあっていいはずだ。そしてそこにはいろんな創造的なアクティビティが生まれるだろう。

実際、指定管理者の入札にはたくさんのハードルがあって、そう簡単にはいかない。また、テーマと特色といったところで、美術館や劇場では、遠方から来る人は多いけど、地元の人は全然集まらない、という例もあるし、地元の人と、ちょっと遠くからくる人のバランスを整えるのはとても難しい。移動時間をどう考えるか。いろいろ課題もある。

でも、「もっと施設が面白くなればいいのに」というのは、今児童館や公民館を運営している人たちも、そして子育てをする人たちや子どもたちも、多くが思っていることだと思う。この非正規雇用/フリーの時代に、市民活動的に立ち上がる芸術団体が児童館の運営を受託する、という可能性も、全然無いわけじゃないのだ。