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2014/10/11

前橋、リサーチ、夜の恋慕 ー服の記憶展について その1

昨日から始まったアーツ前橋での「服の記憶」展。展覧会についてもちょこちょこアップしていこうと思うのですが、その前日譚としてリサーチの過程をちょこちょこ書いていきたいと思っています。これはオープニング明けて眠たい頭をかきまぜながら、高崎線にのって書いています。

今回の新作では、前橋に住むいろんな人に話を聞いて、面白いなとおもった5人の方に協力をいただいてその人のための服をつくり、展覧会ではその人の人生経験ごと試着する、というもの。他人になることはできないが、他人の人生に袖を通すような体験を服はさせられるんじゃないの〜というところが今回のキモ。

2週間前、今回の新作のために必須である夜の前橋リサーチということで、21時から飲み屋をほっつき歩き始める。前橋は昼間のかんさんとした姿とうってかわって週末の夜はとりわけ元気だ。

目的のスナックへ。こういうところ、遊び慣れていないんで、、、とドギマギしつつビールを飲むと、さっきまでリンパマッサージ30分コースで身体をごりごりにほぐされている竹内さんは二杯目でもう絶好調な感じになって、服の話を陽気にしている。とはいえ、普通にママからたくさんの話を聞くことができた。

スナックと児童館はよく似ている。お店の人がいろんな人の席に入ったり抜けたりしつつ勘定や洗い物バースデーケーキの準備はボトルやグラスの片付けをテキパキとする女性たちの振る舞いはさながら児童館の職員さんだ。



とはいえ、ここは大人の空間だ。ぎゃっはっは!じゃあ騎乗位中だしが最高ってわけ?エロいなー!エロい女だなー!みたいな声が聞こえてきて、ギョッとする。かと思えば、サンダルと短パン姿のラフな格好で、というか寝癖で、カウンターで好きなものの話をしまくってる感じの人もいるし、のど自慢だ〜!と言わんばかりに渋い歌声響かす人もいる。
人々の面白い様子が見える。ん〜、こういうところは男性が甘えにくる空間なのかもなあとも思う。擬似的な母子関係、擬似的な恋愛関係を求めに来ているようにも見える。ぼく自身もママにいろんな話を聞いてもらって、いい気になっていた。

スナックでひとしきり話を聞いたのち、夜の街をあるきながら、そもそもスナックとキャバクラってどう違うんでしょうねと、竹内さんが言い始める。行ったことあります?いや、ないっす。行ってみる?比較のために。ほあーまじすか?って会話しながら歩いていたら、どう?そこのスナック、若い子もいるよ、60分4000円でビール焼酎ソフトドリンク、と近寄ってくるおじいちゃんをスルーして歩いてて思ったけど、前橋の千代田町はとにかく夜になるとわっと人出が多くて、昼間の少ない人通りの様相が変わり、キャッチの人たちで街が賑わう。

どうすかどうすか!アニキアニキ!あのーーーーうちの話も聞いてもらっていいっすか!いやぁ、もううちに決めましょ!はい!ほい!

キャッチにも作法があって、4つぐらいの店舗に囲まれたんだけど、一つの店舗が説明してるときは、別の店舗は値段や条件のことを口にしない、というのがある。アニキアニキーー!という声は出し続ける。

はー、そうやって勧誘するもんなんすねー、アーツ前橋って知ってます?あそこで今度展示するために来てるんですよ、ぜひ来てください、へー!そうなんですか!私娘がいて娘が洋服大好きなんですよー、娘と行きます!ぜひぜひ、いろんな洋服が観れて楽しいですよ!とかいいながら、何してんのかよくわかんなくなる。

んで、結局一番若くて元気なお兄さんがキャッチしてたところにいくことにして、人生で初めてキャバクラに入店した。20分ごとに女の子が入れ替わっていくシステムで、2人で行ったから6人の人に出会ったんだけど、みんなに「服の記憶」展の説明をして終わった感じだった。一人だけ、ニゴーとかでてるやつですよね!知ってるー!という人がいた。

んでぼくはというとなんの悪気もなく、いまスナックからのキャバクラに来てるよーと彼女にLINEをしたら、「なに。」とだけ返ってきたのでギョッとして酔いが覚める。腕組みをしながらあーだこーだ考えてどう説明したらいいかを考えていると、ほらほら早く返事しなよー!と隣に座った子が身を乗り出してぼくのiPhoneをぽんぽん触ってLINEを開いて返事を打とうとしはじめたので、これまたギョッとして身を引く。

竹内さんには、おい、キャバクラきて腕くんでんじゃねーよ!とツッコミくらいながら、ぼくはめったなことで怒らない彼女がイラっとしてるのを感じて焦りつつ、酔っ払った手で返事を打つ。

まわりのお客さんを見みると、肩を組んでカラオケを歌っている二人組がいる。声の張り上げ方とか、たまにカウントダウンTVとか見るといるキャバ嬢っぽい歌手の人がいて、ああこの歌い方はキャバクラ的な歌い方なのかもとか考える。

別の席では日サロで焼いた肌がテカる血の気の多そうなワイシャツの男性3人組が、女子たち相手にどんどこどんどこ盛り上げている。さながら映画『ソーシャルネットワーク』のジャンスティン・ティンバーレイク。なるほどこれはスポーツ感覚なのか。いかに女子を楽しませられるか、自分の雄々しさを試す遊びなのか。ガチの求愛ではなく、求愛の遊びとでもいうか、そんなゴリラ感があった。

しかしま〜、何を求めていったわけでもないが、この遊び方はぼくたちには合わなかったみたいだ。店を出た後の感じは茹ですぎた夏野菜を齧ったときみたいだ。水っぽくて味も食感も残念になっちゃった茹で過ぎのトウモロコシみたいな。

いやあこりゃあなんにも残らねえや、彼女には怒られるしよーとか言いながら、キャバクラをでて、むちゃくちゃ美人な女将さんがやってる鰻屋さんでうなぎの蒲焼を食べよう、って話になって、キモ焼きをつまみに飲んでるお客さんからビールを一本ご馳走になる。なんでも女将さんの高校の同級生かなにかで、高崎から来て月に一度こうやって晩酌するんだとか。今年で52歳って言ってたかなぁ。

ぼくはどうにも彼が女将さんへの恋心をずーっと持ってんのかなぁと思ってしまって、ああ慕情とか思ってたんだけど、翌朝竹内さんに話したら、いや、あれはただ仲良いだけに決まってますよ、というのでさすがフラれたことのない男は違いあると思って負けた

ルーザーな自分には彼の慕情がなんとなくわかって、実らないけどしぶとくなっちゃう男子の恋心に、しっとり照れる女将さんの顔の艶っぽさをみて、なんとなくほっとする。
夜の世界はこんなふうに、その土地の人たちのいろんな求愛がマーケットに乗って動いている。そのグルーヴの中で遊びながら、いろんなかたちの求愛の渦を食らうのは楽しかった。

アーツ前橋での「服の記憶」展、次回はまた別のリサーチの様子を書きます。