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2011/09/03

山本高之プロジェクト その始まりによせて

「未来を担うのは君たちです」と校長先生はよく言っていたけれど、当時のぼくたちにとって未来の姿をしている大人はどうにも頼りなかった。だからと言って、自分にできることはゲームをしたり遊んだりマンガを読んだりすることしかなかった。小学校の高学年になり、中学生になるにつれ、そのもどかしさは体の中にどんよりとした雲のように溜まっていった。

今を生きる子どもたちも、生活の中に見えない毒が入り込んでいることを知り、テレビの向こうで偉い人の発言が二転三転していることも知っているはずだ。見せられている世界に「裏側」があり、その「裏側」が混乱していることを感じているはずだ。とはいえ、彼らはその「裏側」に行く手段を持たない。行けたとしても仕方がない。そんなもどかしさを遠くのほうで感じながら、日々の遊びの中に入り込み、魔法使いやドラゴンを操ったり、モンスターを狩猟したりしてるんじゃないか。

アーティスト・イン・児童館2011年度招待作家、山本高之はその表現方法として子どもを相手にした「授業」を用いる。「問題」の説明、ワークシート、工作、発表というように、子どもたちが普段学校で経験している場面を再現していく。「山本先生」による厳しいダメだしもあるという。だがその授業は、子どもたちがこれまで傍観していた世界の「裏側」へと連れて行く。日頃見過ごしていたことをまぜかえすような世界へと誘う。山本はそうした子どもの体験を「いつもの授業みたいなかんじだろうと思ったら、よくわからないところに連れていかれてしまう感じ」と言い表す。 山本の作品とは、「授業」を反転させた仕組みと、戸惑いの中での子どもたちの思考の過程である。

だがそこには戸惑いだけでなく、世界の「裏側」を覗いてしまうような高揚があるのではないか。放課後の児童館で知らない大人と出会い、ワークショップという通路を通って知らなかった世界へと誘われる。2011年秋、アーティスト・イン・児童館は山本高之氏と共に、もどかしい日常に「裏側」への通路を開ける。


アーティスト・イン・児童館2011山本高之プロジェクト
《CHILDREN PRIDE 9.17》 /上石神井児童館
《きみのみらいをおしえます》/南田中児童館 
《まちのみなさんありがとう》/平和台児童館 
《CHILDREN PRIDE 10.30》/文京区内 某所