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2016/03/04

ハンズオン、SF、NY ーエクスプロラトリアム(1)



このあいだの210日から16日にかけて、アメリカはサンフランシスコとニューヨークを旅行してきた。なぜアメリカに行こうと思ったかというと、ひとつは今の仕事についてから初めてもらった休暇だったから。もうひとつは20代最後の一人旅になりそう~っていう予感がしたから。みっつめは、以前から自分の企画の参考にしまくっていたエクスプロラトリアムという科学博物館があって、たまたま11月にそこに行った同僚から「うっすんは(そこに行って見てくるの)マストでしょ」と背中を押してもらったからだ。


アメリカにいって感じたことはたくさんある。英語圏の国にいったのは初めてだったので外国で言葉がわかる!というのが不思議な感覚だったということ。あと、エクスプロラトリアムにしてもNYで見たMOMAにしても、視覚文化の国なんだな~ということ。日本の焼き物とか茶道とか禅とか、見えないものに美を見出す文化っていいもんなんだな~と翻って思った。なによりアメリカでの食事は胃もたれするものがおおくて、「出汁」には改めて感謝した。他にも、サンフランシスコはみんなジョギングしてるしヘルシーだなぁとか、マンハッタンは映画のシーンで見たものがたくさんあるな~!とか。


エクスプロラトリアムについて


さて、目的のひとつだったエクスプロラトリアムについてである。まず概要はウィキペディアから引用。(太字部分はぼくの編集です)

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エクスプロラトリアム: the Exploratoriumは、子供と家族向けの科学博物館。名称は「探検、探究する」(explorer)と「ホール、講義室」(auditorum)からの合成語。
アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコのパレス・オブ・ファインアート(美術宮殿)の港湾地区にある。当初、倉庫を改造してつくられた。2008年現在では、サンフランシスコでは最も人気のある博物館の一つで、年間50万人以上の入館者がある。同館は1969に物理学者で教育者でもあったフランク・オッペンハイマー(en:Frank Oppenheimer)のアイディアと尽力により作られた。彼が初代の館長に就任し、1985に亡くなるまでその地位にあった。運営団体は、NGO組織で運営されている。

エクスプロラトリアムは、観客が触って体感できるハンズオン展示、体験型の科学と芸術の展示によって、科学を知識だけでなく体験によって理解することを重視した最初期のサイエンスミュージアムの1つである。観客が参加・体験できる展示には、ドイツ博物館の先例があるが、科学に重点を絞った展示では同館とカナダのオンタリオ・サイエンスセンターが最初である。同館の展示には、科学者や教育者だけでなくビジュアルアーティストやメディアアーティスト、パフォーミングアーティストも加わっている。芸術家が半年以上滞在して展示物を制作・発表する「アーティスト・イン・レジデンス」の制度も整っている(日本人では岩井俊雄などが参加)。こうした同館の姿勢は、開館以来一貫して掲げられてきた標語「科学、芸術、そして人間の知覚のミュージアム」(Museum of science,art and human perception)に示されている。その意味で、サイエンスミュージアムであり、同時に体験型アート、メディアアートのミュージアムとしての特徴も併せ持っている。

こうしたエクスプロラトリアムで生み出された展示デザインのノウハウは、世界中の科学博物館でもそのまま再現して製作、展示できるように、ノウハウのすべてを『クックブック』(Cookbook、調理本)という名前のマニュアルにまとめて3巻まで刊行されている。子供向けのこの博物館を利用しながら楽しく科学を学ぶためのシリーズ本は『スナックブック』(おやつの本、Snackbook)という名のシリーズで刊行されており、いずれも博物館のミュージアムショップで購入することが出来る。一般の書店でも購入は可能である。

展示について、他では再現出来ないもの、たとえば「ウェーブ・オルガン」のようなもの、サンフランシスコ湾のこの特定の場所でのみ可能な展示というものもある。エクスプラトリアムは、多数のオンラインの科学展示や実験を盛り込んだウェブサイトも1993から運営している。このサイトは、1997年最優秀の科学サイトの表彰が始まって以来既に5度ウェビー賞(Webby Award)を受賞している。

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実際行ってみると、校外学習できた小学生から高校生ぐらいまでの子たちがたくさんいて、「What's this!?」「Wow‼︎I love this‼︎」「Hey hey hey!!!Try this!」という言葉が飛び交い、ハンズオンのたびに「Hooooooo!」という感じだ。会場はこんなかんじ。⬇️


面白かったハンズオンをいくつかご紹介。


まずは定番の触覚の錯覚。触ったコイルの温度が違って感じる、というもの。こんな風に感覚を使って、注意深くさわらなきゃいけないので、普段よりも感覚を鋭敏にしなければならない。


砂鉄の仕組みも、これも定番。


これも定番。今やっている触覚の研究企画でも参考にさせてもらった「タクタイルシアター(触覚の劇場)」。


光の三原色。

植物や微生物に関する研究・展示をしているバイオラボ。ビデオの最初で説明している説明員の人がボランティアなどで集まってくる。来た人を楽しませるプレゼンテーション能力、そしてハンズオンを集中してできるようにするファシリテーション能力が問われる。鍛えられそう。

ほかにも新しく移転してからできた社会心理学の体験コーナーなどもある。会場内には600近くのハンズオンがあるそうだが、続けて体験していくと「世界って不思議に満ちてるよね!」というメッセージを体感する。

ぼくは普段仕事をしていて、サイエンスとかアートを身近に感じて何の意味があるんだろう、ということをよく考えている。それはぼくたちがよりよく生きることができるようになるためだろう、と思う。思考停止しちゃうより、何かを探求し続けたほうが面白いと思うし、世界が鮮やかに見えて楽しくなると思うし、悲しくなって死ぬっていうことがなくて済むと思う。探求は大小さまざまなスケールで可能だし、自分にフィットするスケールややり方に出会えるかどうかって全然違うよな~と思う。エクスプロラトリアムから生み出される様々なハンズオンは、触れて、いじって、世界をその手で探求する面白さを味わわせてくれる。

そんなわけでエクスプロラトリウムは「世界って探求しがいがあるでしょ~」というメッセージに満ちていたし、エクスプローラー(探求)とオーディトリウム(会場)を合わせた場所の名前が表すとおりの空間だった。

エクスプロラトリアムの運営の面白さ

ここに来る前からこの場所に惹かれていた理由は3つある。


ひとつは「ハンズオン展示」。物理の仕組みを本で読むのではなく、実際に見て、触って、聞いて、体験することで理解していく。なんといってもその展示品の手作り感、アナログ感がかわいいし、それがよりサイエンスを身近に感じさせてくれる。


ふたつめに「アーティスト・イン・レジデンス」。なんとこのミュージアムには巨大な工房があって、木工だけでなく金属の溶接とかガラスの加工とかもできてしまう。会場から観客も作業の様子を見えるようになっている。そこにアーティストが来て、科学者と職人と影響しあい、プロトタイプを作りながらハンズオン展示が生まれていくのだ。ぼくは滞在中のアーティストに会うことはできなかったが、ハンズオンに書かれているクレジットから、科学者と職人とアーティストが楽しそうに切磋琢磨している様子が思い浮かんだ。


みっつめは「オープンソース」。上記の通り『クックブック』(amazonで買うとやばい値段になっているが実際は100ドル)や『スナックブック』、そしてなんとウェブサイトで「Science Snack」というページでも公開されている。クリエイティブ・コモンズのムーブメントが盛り上がる前の1993年からこういうことをしていたというのだから、オープンソースの古典であり先駆けだ。

The Tinkering Studio


だが何より僕をひきつけたのはThe Tinkering Studioの存在。紀伊国屋でネタ探しをしていたときに見つけて、速攻で使いまくった本がこちらですが、その現場を実際に見てきた。


ティンカリングスタジオは観客のハンズオンのための場所であり、アーティストと影響し合う場所であり、そしてオープンソースである。エクスプロラトリアムでプロフェッショナルの人たちがやっていることをミニチュア化して、一般の人たちも超手軽に体験でき、実際にいじくりまわして失敗しまくってもよくて、物事の仕組みを学ぶことにのめり込むことができる場所になっている。

今回幸運にも、そこで働かれている松本亮子さんにお話を聞くことができた。

(続く)