家を飛び出した少女と、トラック運転手。奇妙なふたりのロードムービー。
映画は、あっと驚く結末へ向かって進んでいく。主人公の12歳の少女は父親から虐待を受けていた。ある日、学校の遠足で出かけた海辺で偶然停まっていたトラックに乗り込んだ彼女は、スコットランド人のトラック運転手と共に逃避行に出る。フランス語と英語、言葉が通じない2人は、次第に心を通わせていくが…。10年以上前に新聞で読んだとある事件の記事をきっかけに、アニエスべー自身が脚本を書いた、瑞々しいロードムービー。(映画公式サイトより)
なんでこの映画を観たいと思ったかというと、ファッションに関わる仕事をしている手前、アニエスベーのような有名なブランドをつくった人がなぜこんな映画を撮りたいとおもったのか、そもそもアニエスベーってどんな人なのか、知っとくべきかなとかそういうお勉強的な興味だった。しかし想像を超えて映画は素晴らしかった。様々な映像技法を試していること、即興性、そして色や形の作り込みは、映画が初めてとはいえ、ファッションの現場で場数を踏んでいるだけでなく、『マルホランド・ドライブ』や『パルプ・フィクション』の衣装に参加していたり映画制作を支援していたりする、さすがの熟達っぷりで、あのシーンもこのシーンも素晴らしいシーンの枚挙にいとまがない。
あらすじにもあるとおりこの映画は少女とトラック運転手のロードムービーなのだが、それはこの2人が、世界中のどこにでもある郊外の、他者への情愛も尽きそうなほどストレスフルで気怠い生活のなかで傷を負って生きている日々から逃れる、つかの間の旅だ。その旅は唐突に始まり、静かな予兆を携えながら終わりに近づき、そしてやはり唐突に終わる。その終わりを2人がいかに引き受けたか、ということがこの映画の見どころだ。
とりわけぼくが素晴らしく思ったのは、現代美術家のダグラス・ゴードンが演じるトラック運転手ピーターの存在とその描かれ方だった。彼は少女がトラックに乗り込んでいることを発見しても、ほぼ何も言わずに隣に座らせ、「どこから乗ってきたんだ!」とか「こんなことをしたら、大変だ!誘拐になってしまう!」みたいな野暮なことは言わない。その日の夜は何も言わずに寝て、次の日の朝に「おはよう」という。そして、終わりもまた静かに迎える。
このピーターが「いい遊びを思いついた、俺を信用して。」といって肩車した少女を逆さまにするシーンがある。その状態でぐるぐる回る様はあぶなっかしいのだけど、少女は嬉しそうに振り回されていて、彼は息を切らせながらも笑いながらぐるぐる回る。
キレキレな演出のなかで、ほんの些細なワンシーンなのだけど、この映画全体のことがこのシーンに詰まっていた。少女がトラックに乗り込んでいるのに気づいたとき、ピーターは「いい遊びを思いついた」のであり、そしてフランスパンをナイフで半分に切ってピーナツバターを塗ったものをあげたり、次の日の朝におはようのあいさつをしたりして、「Trust me」と無言で伝え、数日間の旅路を少女と一緒にぐるぐる回るのだ。その遊びの終わりをもまた、彼は引き受けるのである。
かっこいいい!!!!!かっこよすぎるっていうか、うおー!!!
みたいな気持ちになった。
以前にツイッターで、こんなことをつぶやいたことがある。
以前にツイッターで、こんなことをつぶやいたことがある。
最近考えてることだけど、ここ数年、あらゆる理不尽さをゆったりと許容し、声に出さないけど他者が求められるであろうことをしなやかに行動して解決に導いていく「キャパシティ男子」というのが増えている、気がする。
ピーターは孤高のキャパシティ男子だったのだなぁ、とか思うと映画が一気に陳腐に見えてしまうけれど、そう感じた。
そしてぼくは見終わったあと、パンフレットを買った。パンフレットがただ可愛かったのもある。だがなにより映画を観てパンフレットを買い、一緒に観た人と飲みながら映画の話をして、帰りの電車でパンフレットを読む、という体験を久しぶりにやってみたくなった。映画館の中では気づかなかった細やかな設定や、俳優の背景、監督の思い、観た人のレビューなどなど、パンフレットで映画のことが語られているのを読んで、映画を観た余韻が言葉になっていくのが嬉しい。
そういえば昔『千と千尋の神隠し』のパンフレットを買って、穴があくほど観ていた。細部までこだわってつくられた映画の細部を知ると、その映画をもう一度観たときの味わいが変わる。何度も繰り返し観たくなる。観るたびにその時々の自分の人生とリンクして、映画が自分の血となり肉となる。
わかりやすいお土産のない体験型ワークショップにも、こういうパンフレットがあるといいんだろうなと思う。
関連する記事はこれ
「読み語りき、書く語りき」
そういえば昔『千と千尋の神隠し』のパンフレットを買って、穴があくほど観ていた。細部までこだわってつくられた映画の細部を知ると、その映画をもう一度観たときの味わいが変わる。何度も繰り返し観たくなる。観るたびにその時々の自分の人生とリンクして、映画が自分の血となり肉となる。
わかりやすいお土産のない体験型ワークショップにも、こういうパンフレットがあるといいんだろうなと思う。
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