「アーティスト・イン・児童館」は私が2008年3月に構想を開始し、2008年9月から「アーティスト・イン・児童館 実行委員会」によって実施が始まったプログラムである。子供とアーティストが児童館という場で出会い関わり合っていく状況を創出するこのプログラムの狙いと仕掛けについて、私自身の活動の経歴とそこでの思考のプロセスを辿りながら、一部を解き明かしてみたい。(「一部」と敢えて付けているのは、私の以下の解説以外にも、このプログラムには意味があることを願っているからである。)
本章では、まず、「児童館」という場所を選んだ理由を、私自身が子供の頃に感じていた違和感からワークショップの実践へ、ワークショップの実践からその引用へと変遷をたどりながら明らかにし、学校とは別の選択肢としての児童館の可能性を記述する。それを引き継ぎながら、「児童館」の仕組みを内側から変容させる関係性として、アーティストの存在の意味を描き出していく。
次に、「現代美術」という分野を選んだ理由を、私自身が関わり影響を受けてきたアーティストのプロジェクトや文献を引用しながら解き明かしていきたい。「異質な風景に出会いたい」という私の個人的な欲望を実現する可能性をもつものとしての美術と、「よくわからないもの」の代表としての美術を、子供たちの生活の中に現していくことの狙いを記述する
そして本書に第2部に描かれるような「記録」にこだわる理由を記述して、第1部を締めくくる。私たちにとって記録とは「想起の装置」であり、新たなイメージを創造するための素材である。そして、記録とは「時間」に形状を与えるものであり、時間の形状(=アーカイヴ)は誰がどのような時間を生きたのかを記し現す個人の公共化のためのツールである。創造力と公共性をめぐる私のイメージを描き出し、第2部「記録編」へと引き継いでゆく。
アーティスト・イン・児童館 プログラム概要
「アーティスト・イン・児童館」は、2008年度にアーティスト・イン・児童館実行委員会の発足と共にSFC教育奨励基金を元手に始まった研究プログラムであり、2009年度から東京都、東京文化発信プロジェクト室(東京都歴史文化財団)、アーティスト・イン・児童館実行委員会の3者の共催で、新しい文化政策の形態として実施されているプログラムである。
<2008年度>
主催:アーティスト・イン・児童館 実行委員会
実施期間:2008年9月~2009年3月
実施児童館:練馬区立東大泉児童館
招待作家:西尾美也
実施プロジェクト:「ことばのかたち工房」(西尾美也)
発行物:「ことばのかたち工房 記録集」
アーティスト・イン・児童館 実行委員会:臼井隆志、菊地みぎわ、高木文、百瀬雄太
協力:練馬区立東大泉児童館、練馬区立東大泉敬老館、もんじゃ屋わらべ、小島屋豆富店、ほか
奨学金として:SFC教育奨励基金、SFCシンポジウム・ネットワークミーティング基金
<2009年度>
主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室、アーティスト・イン・児童館 実行委員会
実施期間:2009年6月~2010年3月
実施児童館:練馬区立東大泉児童館
招待作家:北澤潤、西尾美也
実施プロジェクト:「児童館の新住民史」(北澤潤)、「ことばのかたち工房」(西尾美也)
発行物:とくになし
アーティスト・イン・児童館 実行委員会:臼井隆志、池上ゆいこ、菊地みぎわ、高木文、山口麻里菜
協力:練馬区立東大泉児童館、練馬区立大泉南小学校、練馬区立大泉第二小学校、もんじゃ屋わらべ ほか
助成:練馬まちづくりセンター
<2010年度>
主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室、アーティスト・イン・児童館 実行委員会
実施期間:2010年5月〜2011年3月
実施児童館:練馬区立中村児童館、練馬区立東大泉児童館
招待作家:Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)、西尾美也
実施プロジェクト:「レッツ・リサーチ・フォー・トゥモロー」(Nadegata Instant Party)、「ことばのかたち工房」(西尾美也)、「オープン・ミーティング2010」
発行物:「ことばのかたち工房2008-2009制作記録集」(2010年5月)「児童館の新住民史 手記を辿る」(2010年9月)
アーティスト・イン・児童館 実行委員会:臼井隆志、菊地みぎわ、菊地玲、高梨千恵、辻真理子、時里充、山口麻里菜
協力:練馬区立中村児童館、練馬区立東大泉児童館ほか
児童館には様々な想いをかかえたこどもたちが集まり、
ときに激しく、ときに大人しく、様々な遊びをくりひろげている。
テンションがあがったときには、命をむき出しにして遊んでいる。
アーティストの中には、街や施設の人とのコラボレーションを制作の
方法として活動している人たちがいる。彼らは、どこでも誰とでも
できることではなく、その場、その人、その時にしか生まれない
“サイトスペシフィック”な表現をつくりあげている。
そんなアーティストが児童館を製作の場としたとき、一体どんなことが
おこっていくのか。「うざい!!」「キモイ!!」「死ね!!」とわめきちらし、かと思えば甘え、次々に遊びを変えるアナーキーなこども社会に入り込み、
どんな作品がうまれてくるのか。
そんなこどもたちが、アーティストのような独自の対話方法をもつ「新種」の人間に対して、どのような答え方をするのか。「異物」をどのように向かえ入れ、共存していくのか。そうすることを通して、どんな希望をひらいていくのか。
アーティストが児童館に入り込むことによって生まれる、摩擦、希望、作品を読み解き、考える事。そうして児童館から発信される文化が地域社会とどのように関係していくかを考察すること。
それらを通して、アートの現場としての児童館の可能性をつくっていくことがこのプロジェクトの目的である。
これは私の、「既存の社会の意味をつくり替える」という創造行為でもある。
(2008/04/03 ノートより)
アーティスト・イン・児童館とは
遊びの世界を社会とつなぐ
「アーティスト・イン・児童館」とは、子どもたちの遊び場である児童館にアーティストを招待し、児童館をアーティストの創作・表現のための作業場として活用するプログラムです。
「アーティスト」とは、モノを作ったり、パフォーマンスをしたりして言葉を超えたコミュニケーションを持とうとする人たちのことです。こうしたアーティストの創作・表現の活動と、子どもたちの遊びの活動は児童館の中に対等なものとして共存します。アーティストは、流動的な子どもたちの遊び・生活の現場に出会い、翻弄されるかも知れません。子どもたちは、日常的な行為さえも作品の素材として取り込んでいくアーティストの創作・表現へと巻き込まれるかも知れません。
そのような掛け合いを経て作品が生み出され、発表されます。子どもたちの家族、近隣の住民、学校の先生、自治体の職員、キュレーター、評論家、アートファンの人びとが、児童館から生まれた作品に出会います。
このようにして、子どもやアーティストが体験している世界を、遊び・創作・表現の活動及び作品を通じて社会へと接続しいくことがこのプログラムの目的です。
(2010/10/13 オープン・ミーティング2010第1会 活動紹介用テキストより)
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